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 最近あたしは、ちょっとしたことで悩んでる。
 あたしは新城沙織。もうすぐ高三になる、普通の高校二年の女の子。
 特技はバレー。バレーと言っても踊る方じゃなくて、バレーボールのほう。趣味は……月並みだけど、おしゃべりとウィンドウショッピングということにしておく。
 で、悩みなんだけど……あたしには、つい最近彼氏ができた。
 長瀬祐介くん。あたしは"祐くん"って呼んでる。あたしの悩みというのは、彼についてだ。
 とりあえず彼について話しておこう。
 フルネームは、さっき言った通り長瀬祐介。身長はけっこう高め、少なくともあたしよりは高い。顔は……かっこいいと、思う。あ、かっこいいって言うのとはちょっと違うな。顔立ちそのものは、どっちかって言うとかわいい系かもしれない。でも祐くんの雰囲気みたいなのがあって、それがそのかわいい顔をかっこよく見せてるというか……うーん、いい言葉が見つからない。
 成績は真ん中あたりだって言ってた。スポーツは……苦手みたいだ。
 性格は……優しい、というか穏やか。二人でいてもあたしばっかりがいつもしゃべってる感じ。
 あたしと祐くんがつきあいはじめたのは、とても奇妙ないきさつがあるんだけど……それは、ちょっと話したくない。
 友達はみんな、あたしが祐くんとつきあいはじめたって言うと驚いてた。
「長瀬って、あの根暗っぽいのでしょ?」
「え、マジで? 沙織あれとつきあうの?」
 なんて言われた。まったく、失礼な話よね。
 祐くんには、そんな根暗な感じなんて全然無い。たしかに口数は少ないけど、暗い感じは全然しない。
 ……って、話がそれまくってるな。
 本題に入ろう。
 あたしの悩み。それは……祐くんが、その、恋人らしいことを全然してくれないこと。キスとか、まあ、それ以上も。
 もちろん積極的にそーゆーことがしたいわけじゃない。けど、仮にもあたしと祐くんはつきあっているのだ。それなら、恋人らしい、そーゆーことをしてもいいんじゃないかとは、思う。
 そもそもあたしたちの初体験は、世間一般的に見てかなり異常だったし。できれば、もっとムードのある中で、初体験のやりなおしをして欲しいと思う。恋する乙女としては。






 最近僕は、ちょっとしたことで悩んでいる。
 僕は長瀬祐介。もうじき高三になる、ごく平凡な高校生だ。
 特技は、特にない。趣味はまあ、読書ということになるのかな。
 で、悩みなんだけど……僕には最近彼女ができた。
 新城沙織ちゃん。僕は"沙織ちゃん"って呼んでる。僕の悩みというのは、彼女についてだ。
 悩みの前に沙織ちゃんについて少し話しておこう。
 バレーボールをやってるからか、女の子にしては身長は高め。顔ははっきり言って可愛い。そんじょそこらのアイドルより可愛い、というのは僕の贔屓目だろうか。
 性格はとにかく明るい。僕ははっきり言って根暗な感じだったのだが、彼女と一緒にいるとどんどん明るくなっていく自分を実感する。沙織ちゃんとつきあうようになってから、クラスにもだいぶ馴染んできた。
 頻繁に教室を訪ねてくる沙織ちゃんとの関係を追求されたのが、そのきっかけだった。そのときは、かなり恥ずかしかったけど。
 で、悩みなのだが……僕と沙織ちゃんはいわゆる彼氏彼女の関係である。つまりは恋人同士というわけで、その、キスしたり、そーゆーことをするのに問題はないわけだ。
 でも、そういったことは、どういうタイミングでするものなのだろう?
 なにしろ僕は、今まで女の子とつきあうどころか、ろくに話したこともない。知識はほとんどゼロ。最近になって友人からちょくちょく聞いてはいるけど……
 そもそも僕たちの初体験というのは、そうとう異常な状況下だったし、ごく普通の状態での恋人同士のやり取りというのは、どういうものなのかさっぱりわからない。
 本当は誰よりも女の子らしい沙織ちゃんのために、何とかしてあげたいんだけど……
 やっぱり、僕のほうから動くべきだよな。





 朝の通学路。十字路に祐介が立っている。
「祐く〜ん!」
 走ってきたのはもちろん沙織だ。スポーツをやっているだけあって、家から待ち合わせ場所まで走ったくらいでは、息をきらせることはない。
「おはよう、沙織ちゃん」
 穏やかな笑みを浮かべて、祐介は沙織を迎える。穏やかなのは顔だけで、もう心臓は沙織の顔を見たときからドキドキだが。
「うん、おはよ、祐くん」
 沙織もにっこり笑って答え、学校へ向かって歩き出す。待っていた祐介も自然に並んで歩き出す……はずだった。いつもは、そうだった。
 しかし、
「あれ? 祐くんどうしたの?」
 祐介が止まったままだ。顔は笑ったままなのだが、妙な緊張感がみなぎっているのがはっきりわかる。
 沙織は戻って祐介の顔をのぞきこんだ。
「具合でも悪いの?」
 上目づかいの沙織にドキッとする。
 祐介は、
「なんでもないよ」
 そういって自然に――客観的に見ればひじょうに不自然だったが――沙織の手を取った。
「……あ」
 沙織の頬がじわじわと赤くなる。
 もちろん、祐介の頬は手をつないだ瞬間から真っ赤だ。
「行こう?」
「……うん」
 そして、
 二人で踏み出す小さな一歩。

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