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創作物へ

 マウント深山商店街。
 その一角に、一軒の本屋があった。学校の教室よりも狭いくらいの、小さな店である。品揃えも良いとは言えず、正直潰れていないのが不思議なほどだ。
 そんな本屋の入り口が開き、何故か備え付けられているカウベルが軽快な音をたてる。
 入ってきたのは、白いサマーセーターにジーンズと言う飾り気のない服装の女性、ごく普通でまず目立つはずのない格好だ。しかし、服が目立たなくても纏う方がとてつもなく目立つため、結果彼女はひどく人目を引く存在だった。腰までも伸ばされた髪は、店内の弱い照明でなお輝く銀、それは上塗りされた偽物にはない、確かな本物の艶を持っている。勿論美しいのは髪だけではない、すらりと整った鼻筋、瞳は髪と同じ見ただけで吸い込まれそうな夜空に浮かぶ青銀の月をはめ込んだよう。紅もささないのに薄桃色に濡れる唇は、誰もが目を奪われることだろう。古い芸術にあるようなローブ姿であれば、美の女神かと見紛うに違いない。
 彼女の名はメディア。神代のギリシアに生まれ、現代に二度目の生を受けた裏切りの魔女――と言うのは既に昔の話。葛木宗一郎の婚約者として柳洞寺で慎ましい生活を送る今の彼女を飾るに相応しい言葉は『若奥さま』であろう。
「こんにちは」
 メディアはたおやかに微笑んで、小さく頭を下げた。視線の先にいるのは、初老の域に入った店主だ。
「おお、柳洞寺の奥さんかい。よく来たね」
 にかっと笑うと、背後の棚をごそごそあさる。
「注文の本は……これと、これだったか」
 レジまで歩み寄る彼女の前に、二冊の雑誌が広げられた。
「まあ……」
 思わず漏れた驚きの声を、口に白い繊手を置いて抑える。目の前にある雑誌の内一冊、魅了されたようにその雑誌の表紙に見入る。
「……素敵」
 ほうと感嘆のため息が漏れる様子を、店主はにこにこしながら見守っていた。
「あの」
 少し不安そうな色を浮かべ、メディアが店主に視線を向ける。何かを言いたそうにしているその様子に、店主はますます顔をほころばせた。
「ああいいよ、好きに見ておくれ」
 店主のその言葉に、ぱぁっと花が咲くように笑顔になるメディア。
 彼女が手を伸ばしたのはある種の服飾専門雑誌、俗に言うゴスロリの専門誌であった。
「いやまったく、立ち読みする小僧どもにアンタくらいの可愛げがあればねぇ」
 苦笑いしながら、店主は禁煙パイプに手を伸ばす。そんな店主の言葉が聞こえているのかいないのか、メディアは壊れ物にでも触れるかのように、そっと雑誌を一ページ一ページ繰っては、紙面に広がる世界に感動の息を吐く。
 これは長くなるな、と店主が棚でもいじっていようかと腰をあげると、来客を告げるカウベルが高らかに鳴り響いた。
「いらっしゃい……お、アンタは確か衛宮さんちの……」
「こんにちは、店主殿」
 ショートパンツにTシャツ、一見すると男の子のような格好ではあるがTシャツの胸を慎ましやかに押し上げているふくらみは、見間違えようのない女性のそれ。ポニーテールにしているためちらりと見えるうなじやら、白い太ももやらが涼しげな少女は、衛宮さんちの食いしんぼ大王、セイバーことアルトリアである。
「おつかいかな?」
「はい。シロウが毎月購読している『今日の和食』という書が欲しいのですが……メディア?」
 真っ直ぐ店主に視線を向けると、当然レジで恍惚としているメディアが視界に入る。その様子に、アルトリアは眉をひそめた。
 アルトリアはメディアのことが苦手だった。別に何をされたわけでもないのだが、どうにもメディアの視線が気にかかる。いやらしいわけではない、不快なわけでもない、ただ苦手なのである。変な話だが、士郎や桜から時折似たような視線を感じることもあった。そんな時アルトリアはなんとも居心地の悪い気分になる。
 しかし、そんな苦手なメディアでも一応は友人と言って差し支えない関係なので、挨拶の一つもしないのは礼を失する。
「すいません店主殿、少し待ってもらえますか」
 言ってレジに近づき、
「こんにちは、メディア。買い物ですか?」
 少し硬い笑顔で尋ねた。
「え……あら、アルトリア? 何時入って来たの? 全然気付かなかったわ」
「たった今です。随分夢中になっていたようですが……それは?」
「え、ええ。その、服の本なの」
「服……ですか?」
 きょとん、といった風な表情になるアルトリア。その美貌に反して、アルトリアの思考に着飾るといった発想は存在しない。公式の場においてそれなりの装いをしたことは勿論あったが、それは義務であって彼女が好んで纏ったものではない。しかも豪華ではあったが少女らしさとは無縁であった。彼女は王であったのだから、当たり前だが。
 聖杯戦争が終わった今でも衣服の判断基準は動き易さで、自発的におしゃれしようという気はほとんどない。素材の良さを見過ごせない凛や桜、大河に贈られた服が何着かあるものの、信じ難いが彼女は自分に可愛らしさというものが欠けていると思い込んでいるので、日の目を見ることはあまりなかった。
 そんな彼女であるから、服の本と言われてもぴんとこないのだろう。
「……そうだ! 今度一着プレゼントするから、着てみてくれないかしら。きっと貴女なら凄く似合うわよ」
 物静かなメディアが珍しく勢い込んで言うので、アルトリアは思わず、
「は、はい。ありがとうございます」
 頷いてしまった。
「そうと決まれば、どれがいいか相談しましょう。ご主人、この二冊でおいくらになります?」
「えっと……1980円だね」
「それでは、これで」
 品のいい財布から二千円札を一枚取り出し、店主に渡す。いつになくきびきびした動きである。
「さ、行きましょうアルトリア」
「ちょ、ちょっと待ってください、メディア。私も買い物に来たのです」
「え? あら、そうなの? ごめんなさい、私気が急いて……」
「ああいえ、謝られるほどのことでは……店主殿、『今日の和食』は……?」
 銀髪の美女と、金髪の美少女のやりとりをにこにこ見ていた店主は、アルトリアに言われるまでもなくレジ後ろの棚から彼女の言う雑誌を既に用意していた。士郎から預かったお金でその雑誌を買って、二人揃って店を出る。
「〈フルール〉にでも行きましょうか?」
 ぴくりと、アルトリアの表情が微妙に笑みの形を作る。
 美味しいものならなんでも大好き、甘いもの辛いもの酸っぱいものしょっぱいもの苦いものなんでもござれなアルトリアだが、最近のお気に入りは〈フルール〉のチーズケーキだったりする。
 が、すぐにその眉がくくっと下がってしまう。
「あ……」
「どうしたの、アルトリア?」
「その、誘っていただいたのは嬉しいのですが……」
 語尾の口調が弱くなる。ごにょごにょ小さな言葉を聞き取ると、「持ち合わせが」と恥ずかしそうな囁き。メディアの口元がほころぶ。
「ふふっ。いいわ、アルトリア。今日は私が持つから」
「し、しかしっ」
「私のプレゼントを受けてくれるお礼ということで……ね?」
 柔らかく微笑むメディアに、かつての魔女の面影はない。同性でありながら、アルトリアは少し見惚れた。
「……どうしたのかしら。私の顔に何かついている?」
 恥ずかしそうに言ってハンカチで頬を拭うメディアは、その類稀な容姿を除けば本当に普通の女性と変わらない。だから、
「……いえ。メディア、貴女は変わりましたね」
 口にすべきではなかったかもしれない言葉が、漏れ出た。
「……そうかしら」
「はい。正直に言えば、昔の貴女は禍々しかった……こうして並んで歩くことなど、考えもしませんでした」
「…………」
 真っ直ぐなアルトリアの言葉に、メディアは耳を澄ませる。商店街の喧騒の中、少女の鈴を転がすような声は紛れることなくメディアへと届く。
「ですが……その、なんと言うか、今の貴女は……」
「…………」
「……素敵だと、思います」
「……素敵?」
「はい。素敵です」
 思いがけない言葉にメディアの頬がぽーっと紅潮する。
「……ありがとう」
「……いえ」
 図らずも二人して頬を赤くするという奇妙な構図が出来上がった。気まずくはないが、気恥ずかしい沈黙が少し続く。
「……行きましょうか?」
 意外なことに沈黙を破ったのはメディアの方だった。見た目どおり年を重ねたわけではない二人だが、やはり外見年齢が上なことが影響しているのかメディアの方が年上らしい。アルトリアは頬を赤らめたまま小さく頷くと、黙ってメディアの後を追った。
「……そう言えばメディア、ここまでどうやって?」
 しばらく黙って歩いていたが、ふと疑問に思ったことを口にする。
 メディアの住む柳洞寺は郊外にある円蔵山の、さらにその中腹にある。魔力でブーストされたアルトリアの脚力ならば大した距離ではないが、徒歩ならば二時間近く、自転車を使っても三十分以上は優にかかる距離があるのだ。無論メディアの魔術行使ならば空間転移も可能だろうが、ごく普通の生活を送る彼女がそのような大規模魔術を使うとも考えづらい。
「小次郎に車で送ってもらいました」
 そんなアルトリアの疑問に、メディアはさらりと応じた。その答えに、アルトリアは唖然とする。
「く、車ですか……?」
「ええ。住職のご友人で藤村雷画という方がいるのですけれど、その方が色々と工面してくださって」
「ライガがですか……成る程、彼には私も世話になっています」
 学校に行っていないため有り余っている暇な時間を、雷画相手の将棋やら囲碁やらで有意義に過ごさせてもらっているのだ。それ以外にも、士郎の小さな頃の話を聞かせてもらったりと色々楽しませてもらっている。雷画は雷画でアルトリアの素直な性格と、見慣れない風貌が気に入ったのか遠くから訪ねてきた孫を相手にするような様子。大河など自分への態度との違いを見て拗ねてるとか何とか。
「それにしても小次郎……彼が車ですか……」
 バスに乗ったことはあるが、基本的に未成年揃いの衛宮家に車はない。なのでその辺を走っている車を想像することしか出来ないが、運転席に座る小次郎の姿はどうにも想像し難いものがあった。
「なかなか堂に入ったものですよ」
 その姿を思い出したのか、メディアは柔らかく微笑む。表向き姉弟と名乗っている二人だが、どうやら本当に仲良くやっているらしい。よくわからないが、それはとてもいいことのように思えて、アルトリアの顔にも微笑が浮かぶ。
 だがその笑顔は、すぐに凍りついてしまった。
「どうしたのですかアルトリア、妙な顔をして……」
 前を見据えるアルトリアの視線を辿ってみると、
『臨時休業』
 そんな看板がかけられた〈フルール〉のガラス戸。
「まあ……残念ね」
「……そう、ですね」
 軽く答えたつもりなのだろうが、アルトリアの表情は厳しく、声は苦りきっている。
 アルトリアほどではないが、メディアも残念だった。せっかくお茶をしながら二人で雑誌を眺め、アルトリアにはどれが似合うのか、なんて談義に花を咲かせようと思っていたのに。他に喫茶店がないわけでもないが、やはり〈フルール〉に比べるとランクが落ちてしまう。
「…………」
 本当に悲しそうな顔で俯くアルトリアには悪いが、メディアは思わず、
(可愛い……)
 なんて思いながら苦笑いしてしまった。子供扱いしたらアルトリアはきっと怒るだろうが、喜怒哀楽のはっきりとしたアルトリアは、大人か子供かで言えばやはり子供なのだろう。その真っ直ぐなあり方は、もとは純粋だったとは言え、わりとひねてしまったメディアにとってひどく好ましい。慰めになればと思い、代わりの案を口にしてみる。
「江戸前屋さん、探しましょうか」
「……いえ、それにはおよびません。つい誘いを受けてしまいましたが、よく考えてみればもうすぐお昼です。このような時間に間食するのは好ましいことではない」
 相変わらず厳しい表情のまま、呟くような声で言葉を紡ぐ。
「そう……それじゃあ、お茶をするのはまた今度の機会ね」
「はい……すみません、メディア。結果として貴女との約束を反故にしてしまった」
 生真面目に頭を垂れるアルトリアに、メディアは微笑のまま、そっとアルトリアの髪を撫でた。
「メディア……?」
「真面目ね、貴女は」
「は?」
 目を真ん丸にするアルトリア。
「ただの口約束をそこまで気にすることはないのよ?」
「口頭だったからなんだというのです。約束には変わりないでしょう、浅はかに頷いてしまった私の落ち度です……騎士として、あるまじきことでした」
 そんなアルトリアの姿に、今度はメディアが目を丸くする番だった。真面目な少女だとは思っていたが、まさかこれほどとは。しかし、己を騎士と呼ぶその姿は、確かに凛々しく騎士らしくはあったが、同時にどこまでも少女らしくあった。
(アルトリア……なんて可愛いのかしら)
「め、メディア!? 突然どうしたのですか!」
 アルトリアの慌て声。気がつけば、メディアは小柄な少女の身体をぎゅっと抱きしめていた。
「あら、ごめんなさい。貴女があんまりにも女の子らしくて、可愛かったものだから」
 我に返っても抱きしめた身体は離さない。頬に当たるふわふわとした髪は、メディアのそれを月光を梳いた様だと言うなら、陽光を梳ったよう。柔らかで、あたたかく、ひなたの香りがする。
「……メディア、貴女までシロウやタイガのようなことを言うのですか」
 抱きしめられたまま憮然と呟く。
「はなしてください……このような往来で、その、恥ずかしいです」
「え?」
 ふと回りを見ると、なんだかちょっと人だかりになってた。
 まあ、二人揃ってちょっとお目にかかれないような美人の上に銀髪青眼、金髪碧眼の外人さんである。目立つなと言う方が無理があろう。二人とも商店街には随分馴染んできたものの、流石に通行人全てに面が割れているわけではない。ドラマの撮影だろうか、なんて無責任な憶測があちらこちらで囁かれる。
「や、やだ……っ」
 ネジが巻かれたブリキのオモチャの様に、ばっとアルトリアから離れたメディアの頬は、葛木を前にした時のように赤くなっていた。
 その様子をアルトリアはしばし眺め、ふっとあかいあくまのような笑みを漏らし、
「メディア……貴女こそ随分可愛らしいと思いますよ」
 なんて、彼女にしては珍しいからかいの言葉を口にした。誰とは言わないが、あかいあくまやらしろいこあくまやらの影響が、知らず知らずの内に出ているらしい。
「なっ!? なにを言っているのアルトリア! 可愛らしいという言葉は貴女やイリヤスフィールのような少女のために存在するのであって私のような者に使われるはずはありません!」
 必死な様子で否定するメディアだが、その姿は十人に尋ねれば間違いなく全員が可愛いと断定するだろう。ちなみに今のセリフ、一息。高速神言のスキルを持つのは伊達ではないといったところか、まあ大して関係はないが。
「そうでしょうか。シロウも先日言っていましたよ、最近のメディアは可愛らしいと」
 球技大会を見に来たメディアを目にして、そんなことを言っていたのだ。その時は理由も分からずむっとしたものだったが、今なら笑いながら言うことが出来る。
「あ、アルトリア! あまり年上をからかうものではありません!」
「からかってなどいません、私は事実を述べているだけですから」
 まさにアルトリアの言葉どおり、メディアを知る葛木の生徒の間での彼女の評判は「凄く綺麗で可愛い人」であり、辞書で堅物を引いたらサンプルとして載っていそうな葛木の恋人であることは、既に学園の七不思議として認可されている。知らぬは本人ばかりと言おうか。
「〜〜〜〜っ」
 顔から火が出そうなほど照れ照れなメディア。救いの神は、意外なところから現れた。
「義姉上、このようなところにいたのか」
 颯爽。ただ歩いているだけなのにそんな言葉がこの上なく似合う。後頭部で一つに纏めた長い髪を、夏の風に涼やかに揺らすその男の名は佐々木小次郎。かつてメディアに召喚された偽りの暗殺者のサーヴァントであり、今は柳洞寺の居候その三である。なお、地蔵は背負っていない。
 突然現れた伊達男に、商店街を訪れていた奥さま達は思わず息をのんだ。
「小次郎、お久しぶりです」
「アルトリアか」
 そんな周囲の雰囲気の変化に目もくれず、アルトリアは小次郎に向かって一礼する。アサシンとして呼ばれながら、剣士として呼ばれた己を越える剣技を身につけたこの男を、アルトリアは純粋に尊敬していた。互いに暇な身、物干竿と風王結界を竹刀に換えて打ち合うことも度々あった。
「ふむ。便りが無いは健やかな証と言うが、元気そうで何よりだ」
 本屋の袋を抱える彼女の健康そうな様子に(もっとも、元サーヴァントの身が病を患うのか小次郎は知らないが)顔をほころばせる。
 小次郎にしても、生前得られなかった好敵手であるアルトリアやランサーは大切な友人だ。ましてその本質が獅子だとしてもアルトリアは見目麗しい少女であるのだから、剣一筋の小次郎とは言え会って楽しい相手だった。
「ところで、義姉上はどうしたのだ? まるで宗一郎殿を前にしたような風ではないか」
「はあ、それが可愛いと言ったらあのような様子に」
「そうか……まあ、義姉上の面倒は私が見ておこう。アルトリア、そなたは此処に用事があったのではないか? 義姉上のことは気にせずともよいぞ」
「そういうわけにはいきません。メディアとはちょうど別れるところでしたが、挨拶も無しで行っては礼儀に反します」
 きっぱりと言って、頬を紅潮させたまま俯いているメディアの肩をそっとゆすり、
「もうすぐお昼なので、私は帰ります。近いうちに小次郎と仕合いに行きますから、お茶の話はその時に改めて」
 ぺこりと頭を下げる。頬は赤いままだが、メディアはなんとか口を開いた。
「そ、そうね。お寺に来てもらった方が色々な本から服も選んでもらえるし……ええ、その機会を楽しみにしているわ」
「はい。それでは、また」
 再度深々と義姉弟に頭を下げ、アルトリアは金糸の髪をなびかせて商店街の雑踏へと消えていく。それをなんとはなしに見送って、
「……そう言えば小次郎、貴方どうしてここに?」
 本屋に寄るから先にスーパーで待っているように言っておいたはずなのだが。
「なに、すぐに済むと言っていたわりには少し遅いと思ってな。タチの悪い輩に絡まれでもしていたら大事だと思って様子を見に来たまで」
 本気を出したメディアを害せる者など、人類には存在しないと言っても過言ではない。現代においては魔法こそ使えないものの、彼女の魔術行使は魔術師の領域を遥かに超えた、魔法使いと言っていいレベルに達している。もし、もう五百年ばかり昔に召喚されていたなら、彼女は魔法使いに列せられていただろう。
 しかし、それはあくまで本気を出してのこと。剣技や槍技、己が得物を以って戦う術は勿論のこと、一級の体術を習得しているアルトリアやランサーと違ってメディアはお姫様の出自。ケンカだってしたことがないのである。しかも彼女は世間慣れしていないお嬢様(と言うには少々トウが立っているが)、ちょっとしたことで妙な連中に絡まれかねない。
 もっともここ深山町は藤村組の影響力が強く、そうそうおかしなマネが出来る所ではないのだが。
「ふふ、ごめんなさい。少しアルトリアとお話していたの」
「そのようだな……まあ、何事も無くてなにより。それより義姉上、利用していないのにあまり長時間駐車しては他の者の迷惑になろう。用事が済んだのなら買い物をして寺に戻ろうではないか」
「そうね……行きましょう」
 長い髪を翻し、スーパーへと向かうメディアの半歩後ろを小次郎が続く。
 それは、平凡とは言い難いけれど、なんだかあたたかい家族の姿だった。
 可愛い友達と、気を許せる家族と、愛しい人と。それぞれの顔を思い浮かべ、メディアの顔に優しい微笑みが浮かぶ。
「義姉上……?」
 義姉の雰囲気の変化を感じ取ったのか、小首をかしげる小次郎に優しい笑顔のまま、
「なんでもありません。ただ……」
「ただ?」
「幸せだなぁ、って」

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